酒見 賢一
この前は、商王朝建国の功臣、伊尹を題材にした小説を取り上げたが
今回取り上げるのは、商王朝を滅ぼし周を建てた功臣・周公の小説。
酒見健一は『陋巷にあり』で孔子一門をサイキックに描いているが
この『周公旦』は『墨攻』のようにリアリスティックに描き
硬派な歴史小説になっている。とはいえ、当時は
商後期の青銅器が示すとおり、醜怪な神が人々の行動を支配していた
残照が色濃く残っていた。
リアルに当時の人々の心情を描けば描くほどに、ファンタジーの領域に
達する。その狭間で、歴史的人物としての周公の輪郭を
よくあらわしていると思った。
周公とは、孔子が夢に見るほど私淑する聖君子でありながら、
その人物像は孔子もあまり語らないし、
あまり知られていないのではないか。
建国の王、武王が早逝し乱世に戻りかけた周王朝を建て直し
その後の中国の支柱となった儒教の根本をどううちたてたか、
酒見健一はそこにせまる。
呪術を昇華し、「礼」として蒙を啓く力とする。
巫祝(シャーマン)として、政治家として、周公の人物を初めて
把握できた気がする。