ソルジェニーツィン, 木村 浩
ロシア文学は良い。
登場人物の過剰なまでの楽天的思考、一日を生ききるしぶとさ、
日本文学には到底望めないものがそこにはある。
ロシア正教、ロシアの広大な荒野、零下40度を越えるブリザードが
その強烈な人間性をつくりだすのだろうか。
この『イワン・デニーソヴィチの一日』はソルジェーニツィンが
ラーゲリ(収容所)に些細なことから嫌疑をかけられ8年間
強制労働させられていた体験をもとに、真冬の囚人の一日を
淡々と描いている。
零下40度、ろくな食事もなくて気を抜くと凍死してしまう凍土での
労働。悲惨な境遇のはずなのに、そこを生きる囚人たちは
日々のちょっとしたことに喜びを
見出してしぶとく耐える。そこには感傷的なペシミズムはなく
そこはかとなく楽しさ・ユーモアさえ感じられる。
それは今の日本に欠けている、ほとんど唯一のものだとおもう。