進化論は日本では義務教育で必ず習うもので、「自然選択説」は誰もが知っています。


この『面白くて眠れなく進化論』はその「進化論」の常識が、近年変わり始めているという、なかなかエキサイティングな内容でした。
「進化論」が進化している?
「進化論」も進化する
というのが、この本で一番力点が置かれているところです。

ダーウィンが初めて、「神の力無しに生物の適応を説明」して、生物の多様な在り方に斬新な理解をあたえた「自然選択説」を見つけ出してから、150年経っています。
ダーウィンの仮説はシンプルで美しく、魅力的であったため進化論を信奉するあまり思考停止に陥ってしまう科学者が数多くいたそうです。
そんな進化学者は「適応万能論」を繰り出して、「全ては自然選択の思し召しだ、ということで、何も考えなくてよいこと」とまで言いだし、自然選択だけが唯一絶対の説でそれ以外は認めないという一神教的態度を醸してしまいました。
進化には決まった方向はない
そもそもダーウィンの「自然選択説」は「環境に応じて生物が適応する」という考え方の他に、「進化には決まった方向性がない」という観点もありました。

しかし、その生物は「元々決められた方向性に向かって、進化するのでははない」ということがあまり理解されなかったことから優生学や社会ダーウィニズムを生み出してしまったのです。
ウイルス由来のDNAとトランスポゾン
ダーウィンの時代にはなかった分子生物学の方面からの解明が進み、進化論は進化を続けています。
ウイルスとDNAの溶原化
ウィルスの一部には、宿主のDNAのなかに入り込んで、宿主のゲノムと一体化してしまうものがあることが分かってきています。
ウィルスの DNAの両端が、切断された宿主のDNAと結合し、一本のDNAになってしまう
という「溶原化《ようげんか》」が起こるそうです。

そして、組み込まれてしまったウィルスの遺伝子はそのままでは働かなくなって、宿主のゲノムととも次の世代に伝えられていくとのこと。

人間のゲノムを解析した結果、かなり多くのウイルス由来DNAが存在することが知られています。
ウイルスによって、「点突然変異」をはるかに越える大きなDNAがいきなり遺伝子に挿入されて、それが生物の生存に支障が無い場合、ずっと伝わり続けているのです。
蓄積されたウイルス由来DNAが長い時間を経て形質に影響を与えているのかも知れません。
トランスポゾン(動く遺伝子)
ウイルスがDNAを挿入して、生物の進化に寄与しているということは知っていましたが、次のトランスポゾンは知らなかったので、かなり驚きました。


トランスポゾンは、簡単に言ってしまえば一つの染色体から他の染色体に移動する「動く遺伝子」のことです。
トランスポゾンは
「自分自身が指定している酵素により、自分自身をゲノムの中の特定の配列を持つ領域に挿入し、再び切り出して、別の場所に挿入する」
ことで、染色体上で移動し、遺伝子作用を調整しているそうです。
こんなに動き回るトランスポゾンは特殊なものではなくて、生物によっては全体の40パーセントもあります。
DNAと塩基配列は、ほとんど変化しない静的なものではなくて、ダイナミックに変化をし続けているという驚くべきことをこの本から学びました。
「点突然変異」しか起こらないと想定されていた「総合説」の仮定とは異なり、大きなDNA分子がゲノムの中を動き回ることが普通に起こっている
まとめ
この本で重点が置かれているのは、進化論が現在どう進化しているかという話題でが、他にも色々な興味深い話が出て来ます。
例えば、行動経済学の「時間割引」という現象が、人間だけでなく、コオロギなどの無脊椎動物にも先天的に見られて、時間という要因を進化論に組み込むべきことや、働かないアリはなぜ働かないのか、なぜ働かないのに存在を許されているのか等々。


進化論が分子生物学によってどのように変化しつつあるのかというエキサイティングな話題だけでなく、単純に読物として大変面白い話題が多いです。
語り口も丁寧で分かりやすいので、学生時代以来、科学や理科的な話題から離れてしまった人にもオススメな本です。
使用した画像生成AIとモデル
このブログ記事の画像は画像生成AI Stable Diffusion WEB UI を使って、モデルはBreakDomainです。
現在、どのモデルよりも安定して高品質なので、困ったらコレといった感じで万能といえます。