齊藤 元章、井上 智洋の対談形式の本『人工知能は資本主義を終焉させるか 経済的特異点と社会的特異点 (PHP新書)』を読みました。
2045年と言われているシンギュラリティの到来時にいかなる社会変革が起こりうるのか、2030年のプレ・シンギュラリティまでに何が起こるのかを金と経済の問題を中心に語られています。
AIに代替できないこと
人間が汎用人工知能やロボットに負けない「CMH」という3つの領域として
- Cはクリエイティヴィティ(Creativity:創造性)
- Mはマネジメント(Management:経営・管理)
- Hはホスピタリティ(Hospitality:もてなし)
が挙げられていて、この三つの分野の仕事はなくならないと考えているとのこと。
確かに、1の創造性と3のホスピタリティは人間の方に分があると思います。
しかし、マネジメントはビッグデータ&機械学習したコンピュータのほうが得意なような気がします。
人間はどうしても感情に左右されてしまうものなので、その制約がないAIの方が適しているのではないでしょうか。
芸術分野のなかでも小説や映画のような複雑な構築物であればあるほど、AIにとって難しく、さらにハードルは高まる
確かにそうかもしれませんが、物語の類型というのはギリシア悲劇や仏教説話、神話などで出尽くしているとも言われています。
AIが古今東西の厖大なアーカイブを学習して、人間がグッとくるパターンや感動を出力すれば、それなりのものができるんじゃないかと思います。
実際、ハリウッド映画の中にはよくまとまりすぎていて、AIが作っても同じ筋書きになりそうなものがあります。
コラージュアートや俳句のような構成要素が少なく、構造が単純な芸術分野であれば、AIにも面白いものをつくれる可能性
これはもう既に俳句や大喜利、ショートショートなどでAIが面白いものを作っていますが、AIが作ったモノには属人性がないので、やはり作家は生き残ると思います。
ベーシックインカムとヘリコプターマネー
経済問題については勉強中なので、なかなか難しかったです。
貨幣発行益を得る主体を、銀行ではなく家計、すなわち市民にすべきだということですが、具体的には後述するように、銀行による信用創造を禁止し、ヘリコプターマネー(貨幣を直接市中に供給すること)を貨幣政策の主軸に据えようというのが私の考え
貨幣発行益が銀行から市民に移れば、とのことですが、そもそも貨幣発行益を得ているのは国家ではないでしょうか。
国家が貨幣発行権を手放すとは思えないので、なかなか実現は難しいと思います。
労働が不要になる純粋機械化経済の到来にともない、雇用を失った人々の生活を支えるための社会保障制度として、安定した財源である税金を原資として実施される「固定BI」に加え、需要増大と景気安定化のためにヘリコプターマネーを財源として行われる「変動BI」
「固定BI(ベーシックインカム)」に加えて、「変動BI(ベーシックインカム)」があれば理想的ですが、今の現状では「固定BI」も実現には大きな壁があると思います。
ベーシックインカムが実現されるとすれば、社会保障費や医療費への補助、年金等がゴッソリ削られることになるでしょう。
そうなれば、私のように身体が弱い人間は、より苦しくなってしまいます。
今は健康で仕事も順調だという人も、いつ身体を壊してしまうか分かりません。
エネルギーのフリー化、地価暴落で土地が余る
この本では、エネルギーのフリー化から社会の大変革が始まると考えられています。
人類が社会的特異点に向かって一気に動き出す最初の「ドミノ」は、エネルギーがフリー、つまり無料になることであると確信
夏場や冬場に電力が不足する心配をしなければならない現状からすると、エネルギーが無尽蔵に生み出され無料化するという未来はにわかに想像できません。
ただ熱核融合が実用化に至れば、夢は夢でなくなるかも知れません。
熱核融合が10年後には実用化されるかもと言われてから、もう十数年たちますが、やはり安定して核融合の反応を起こすのはまだまだ技術力が足りてないのでしょう。
この本では熱核融合の他にも可能性がある技術が何百とあって、「何かの技術が単独でフリー化されるのではなく、さまざまな動きが同時多発的に、短期間で起こってくるのではないか」とあります。
太陽光、地熱、風力等での発電効率が飛躍的に上がるということなのでしょうか。
エネルギーのフリー化によって、農業も工場で行われるようになり、どんどん小さな土地に集積されていき、農地があまり必要にならなくなると指摘されています。
さらに農地が減ったら、その分住宅地が増えて土地がタダになっていくとのこと。
確かに、もともと農地だったところの地価は下がるでしょうが、東京の中心部とか都市部の地価は下がらずに二極化していきそうです。
電脳化のその先へ
シンギュラリティが訪れれば、人間の脳は攻殻機動隊のように電脳化されていて、人の頭脳同士がダイレクトにつながり共感し合う世界になると考えられています。
ここまでなら、SFの世界でもよくある設定ですが、
アーススケールのコネクトーム段階でも終わりたくないというのが正直なところで、さらにギャラクシースケールからユニバーススケール、スーパー・ユニバーススケールスにまで展開したいという思いがあります。宇宙に知性が満ち渡って、宇宙が覚醒して、さらに他の宇宙ともつながるところまでわれわれ人類は行けるはずだろうと妄想しているのです。その方向性に向かうには、人が閉じこもって脳内物質にコントロールされて幸福感に浸っている場合ではないですからね。
とここまでくれば、かなりぶっ飛んでいます。
一つの宇宙の中でさえ、光速で通信したとして何億年もかかるのに、因果の切れた他の宇宙と交信とは。
- イギリスの物理学者ジョン・デスモンド・バナール『宇宙・肉体・悪魔』
- バナールに影響を受けたSF作家アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』
- アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』
との類似性を指摘されますが、著者はもろに影響を受けていると言ってます。
いつかは人間はそこまで行くのかもしれませんが、2030年と言われているプレ・シンギュラリティ、2045年と言われているシンギュラリティでは到達できない可能性が高いのではないでしょうか。